端材を用いた版画作品です。

端材とは、木材を目的の資材に加工する際に切り取られた残りの部分です。この作品は、その端材を版にして版画にしたものです。元あるものを別の形に生まれ変わらせることは私の制作テーマの一つでもあり、膨大な距離と時間を経て私の元に辿り着いたこの木のかけらを素材に選びました。


そもそも、この木はどこから来たのでしょうか。私はこの端材をホームセンターで入手しましたが、そこに並ぶ木材のほとんどが外材です。日本は国土の67%が森林で、そのうち40%が人工林であるにもかかわらず、木材自給率は約40%にとどまっています。その理由には、外材が安価であること、林業の労働力不足、資金不足などが挙げられます。日本の人工林は木材として成熟期に達していますが、労働力不足や資金不足のため伐採が進まず、伐採してもその後再び植林されるケースは3-4割ほどと言われています。
さらに、増えすぎた鹿による食害などで、山林一帯の植物が食べ尽くされ、伐採後にせっかく植林しても若い苗木があっという間に食べられてしまいます。鹿は江戸時代には平野部に生息していましたが、大規模な開発などで山に追いやられ、そこで増え続けてきました。結局のところ、鹿も居場所がないのです。
この端材も、わざわざ輸入されたにもかかわらず、結局行き場を失っています。行き場のない鹿。行き場のない端材。この作品には、密かに鹿のイメージを入れています。
これはただの木片ではありません。世界を映す鏡ともなりうるのです。

新しい試みとして、版画制作においては避けられない不可逆性を利用し摺る前の木をNFTとしてブロックチェーンに刻みました。それはこの作品の所有の証となります。

url: https://bit.ly/3XFyNXK

process

絵柄はプログラムで作成。端材に転写したのち彫刻刀で彫り、1面ずつ展開図のようになるよう摺って行きました。

水性木版画、和紙
Waterbase woodblock print, washi paper
3.3×3.3×9cm(版) / 38×42cm(版画)
2023